コラム
パーキンソン病は、神経伝達物質・ドーパミンの不足により、体の運動機能が徐々に低下していく病気です。厚生労働省により難病に指定されているこの病気は、現在でもはっきりとした原因が解明されていません。
その一方で、発症リスクとして「加齢」や「遺伝」が挙げられており、さらに「食べ物」についてもリスクを高める可能性があるという報告があります。
この記事では、パーキンソン病の発症リスクを高める食べ物と、パーキンソン病の治療に使われる薬について紹介します。
治療薬の効果を高めるために普段から意識したいポイントや、予防に役立つ食べ物についても取り上げていますので、ぜひ参考にしてください。
目次
パーキンソン病の発症リスクを高める食べ物は、「糖分を多く含むもの」「動物性脂肪を過度に含むもの」「除草剤や殺虫剤が残存したもの」に分けられます。それぞれの特徴と、なぜ発症リスクを高めるのかについて確認していきましょう。
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センターは、遺伝子変異と糖脂質の蓄積がパーキンソン病を発症しやすくなるという研究発表を行いました。
この発表によると、糖脂質(※)を分解する酵素の一つ「グルコセレブロシダーゼ(GBA)遺伝子」が変異すると、糖脂質の分解力が低下し、過剰に蓄積することがわかっています。
糖脂質の過剰な蓄積は、パーキンソン病の発症に関わる異常を引き起こす要因となるため、糖脂質のもととなる糖質の摂り過ぎには注意しなければなりません。
なお、これはグルコセレブロシダーゼ遺伝子の変異が起こった前提での注意点です。パーキンソン病の発症リスクを下げ、予防につなげるためには、砂糖をはじめとする糖質を含む食べ物を過剰に摂りすぎないことが大切です。[1]
※細胞膜を構成する材料であり、細胞の機能の仲介・調節など、生命活動にとって大変重要な存在
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参考:国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター「パーキンソン病の新たな発症メカニズムをモデル動物で初めて解明―糖脂質がαシヌクレイン蛋白質の異常構造変化を引き起こす―」
動物性脂肪を多く含む食べ物は肉の脂のことで、脂質の一種であるLDLコレステロールを多く含みます。このLDLコレステロールが体内に増えると、パーキンソン病のリスクが上昇するという研究結果が発表されています。
福岡・近畿パーキンソン病研究では、入院または通院中で神経変性疾患と診断されていないパーキンソン病患者に対し、脂質の摂取とパーキンソン病リスクとの関連を調べました。その結果、コレステロールの摂取量が多い人ほど、パーキンソン病のリスク上昇との関連性が認められました。
動物性脂肪は体のエネルギー源となる一方、LDLコレステロールも含んでいるため、成人なら1日50グラムを目安に、過剰に摂取しないよう注意が必要です。[2]
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参考:愛媛大学医学部「福岡・近畿パーキンソン病研究の結果 脂肪酸摂取とパーキンソン病リスクとの関連」
近年の研究では、パーキンソン病の環境要因として除草剤や殺虫剤などの化学薬品についても問題視されています。
パラコートは、大脳皮質のドーパミンや、ほかの脳細胞を破壊し、パーキンソン病に似た症状を引き起こす合成化学物質MPTPを含んでいる農薬です。
一般的にドーパミンの分泌不足が原因で発症するといわれているパーキンソン病ですが、合成化学MPTPによってもパーキンソン病と同じ症状を引き起こすことが実験で確認されました。
この薬品が残存している野菜や果物を口にすると、パーキンソン病のリスクを高める可能性があるため、しっかりと洗浄して調理する必要があります。[3]
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参考:環境脳神経科学情報センター「パーキンソン病と農薬」
パーキンソン病の治療薬は、脳内に不足したドーパミンを補う薬品が中心です。患者さんの症状や服薬後の状態に合わせて薬剤を組み合わせて処方します。
【パーキンソン病の薬剤】
L-ドパ(レボドパ) | 脳内でドーパミン神経細胞に取り込まれ、ドーパミンを作り出す |
ドーパミンアゴニスト | ドパミン受容体に結合してドパミンと同じように信号を伝達する |
カテコール‐O‐メチル基転移酵素(COMT)阻害薬 | レボドパを分解する酵素を阻害してレボドパの脳内への移行を高める |
モノアミン酸化酵素B阻害薬 | ドーパミンやセロトニンの分解酵素「MAOB」の働きを阻害し脳内のドーパミン濃度を上げる |
レボドパ賦活薬 | レボドパ製剤の効果を活性化させたり増強させたりする作用がある |
アデノシンA2A受容体拮抗薬 | 脳内のアデノシンA2A受容体を遮断して症状を緩和させる |
ノルアドレナリン補充薬 | 脳内のノルアドレナリンを補充し、歩行障害や立ちくらみなどの症状を緩和させる |
ドーパミン遊離促進薬 | 脳内のドーパミン神経からのドーパミン分泌を促進する |
抗コリン薬 | 神経伝達物質と受容体の結合を阻害し、副交感神経の働きを抑える |
パーキンソン病の治療薬の効き目を高めるためには、食事内容や薬の服用方法を工夫する必要があります。胃腸での吸収を高められれば、薬がしっかりと体内で作用し、効果が出やすくなります。
ここからは、パーキンソン病の治療薬と併用したい2つの方法を確認していきましょう。
パーキンソン病の薬を服用する際、加齢によって胃酸の分泌が減ってしまった方は酸性の液体と一緒に薬を服用すると吸収率を高められます。
水は中性のため、レモン汁を数滴加えて酸性にすると、胃酸の代わりになり薬の吸収を促してくれます。
パーキンソン病の方は、便秘になりやすいため、腸内環境の悪化に注意が必要です。善玉菌を増やす乳製品や食物繊維を含むきのこ類を摂ることでぜん動運動が促され、便秘解消効果が期待できます。
ただし、乳製品の摂りすぎると、胃酸が中和されてL-ドパ(レボドパ)製剤が吸収されにくくなる可能性があります。
乳製品は動物性脂肪に含まれるので、先述したように、成人であれば1日50グラムを目安としたうえで、摂取量には注意しつつ腸内環境を適切に整えましょう。
関連記事:パーキンソン病が治る時代はやってくる?注目される2つの先進的治療
パーキンソン病の代表的な薬であるL-ドパ(レボドパ)製剤は、バナナとの同時摂取を避けてください。バナナに含まれるピリドキシンは、L-ドパ製剤の分解を促進して効果を薄める作用があります。
そのため、バナナと同時に薬を摂取すると吸収効率が下がってしまい、十分な効き目が得られないおそれがあるのです。
関連記事:パーキンソン病とチョコレートの関係|病気の予防に活用したい食べ物
バナナ以外では、薬の中に含まれるトランスポーター(運び屋)の働きを低下させることから、タンパク質の摂取を控えましょう。
ビタミンB6はアボカドなどに多く含まれている栄養素ですが、パーキンソン病の薬の分解を促進する作用があるとされており、サプリメントも含めビタミンB6を摂りすぎないように量を調節してください。
次に、パーキンソン病の予防に役立つ食べ物をチェックしていきましょう。
コレステロールの摂取量には注意が必要ですが、牛肉や豚肉にはパーキンソン病の患者さんに不足しやすいアミノ酸の一種「メチオニン」が含まれています。
牛肉や豚肉以外に鶏肉・ブロッコリー・にんにく・魚(カツオやマグロ)にも含まれていますので、バランス良く食材を取り入れてみてください。
大豆にはアミノ酸の一種「チロシン」が含まれています。チロシンはドーパミンの材料になる物質のため、食事から意識的に摂取することが大切です。
卵・小麦は身近な食材ですが、アミノ酸の一種「フェニルアラニン」が含まれています。フェニルアラニンもチロシンと同じくドーパミンの元になるため、食事から摂取すると良いでしょう。
今回は、パーキンソン病の発症リスクを高める食べ物と予防に役立つ食べ物、パーキンソン病の治療に使われる薬について紹介しました。
パーキンソン病に罹患してからは、食事の内容に注意して食材選びやメニュー構成を考えていく必要があります。
バナナのように食べ合わせが悪いもの、レモンや大豆のように薬の効果を助けてくれる食材をチェックし、意識的に薬の効果を助ける食材を選んで組み合わせてみてはいかがでしょうか。
スーパー・コートではパーキンソン病専門住宅を運営しており、ご入居者の運動機能の維持や生活の質の向上を目指した取り組みにも力を入れているので、ぜひご相談ください。
パーキンソン病専門の介護施設・老人ホームならスーパー・コートへ
監修者
花尾 奏一 (はなお そういち)
介護主任、講師
<資格>
介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士
<略歴>
有料老人ホームにて10年間介護主任を経験し、その後「イキイキ介護スクール」に異動し講師として6年間勤める。現在は介護福祉士実務者研修や介護職員初任者研修の講師として活動しているかたわら、スーパー・コート社内で行われる介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成や試験官も務めている。