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介護におけるバリデーションとは?コミュニケーションの技法や事例も紹介

介護の現場では、ご高齢者、特に認知症の方とのコミュニケーションが非常に大切です。 しかし、時には言葉がうまく通じなかったり、相手の感情を理解するのが難しかったりと、コミュニケーションの壁に直面することもあるでしょう。
そんな時に役立つのが「バリデーション」というコミュニケーションの技法です。 この記事では、介護におけるバリデーションの目的や具体的なテクニック、活用事例を詳しく解説します。 バリデーションは、相手の感情に寄り添い、信頼関係を築くための重要なアプローチですので、ぜひ最後までご覧ください。
バリデーションとは

バリデーションは、近年、特に認知症ケアの分野で注目されているコミュニケーション方法の一つです。
ここでは、バリデーションの基本的な意味と、介護現場における目的を解説します。
バリデーションの意味と由来
バリデーション(Validation)は、本来「検証」「承認」「認めること」などの意味を持つ言葉です。
介護におけるバリデーションは、1963年からアメリカのソーシャルワーカーであるナオミ・ファイル氏によって開発が始められ、1980年代に確立された、認知症高齢者のためのコミュニケーション技法です。
介護の場面では、認知症の方の言動を否定せず、その背景にある感情や意図を「認め、受け入れる」ことで、尊厳を支えるコミュニケーション方法を指します。 大切なのは、認知症の方の世界観に共感し、寄り添う姿勢です。 このアプローチにより、ご本人のストレスや不安を和らげる効果が期待できます。
介護におけるバリデーションの目的
バリデーションの主な目的は、認知症の方の言葉や行動の裏にある「満たされない欲求」を探り、それに応えようとすることです。 認知症の方が繰り返す言葉や一見不可解に見える行動には、ご本人なりの理由や、うまく言葉にできない本音が隠れていることがあります。
バリデーションでは、そうしたサインに注意深く耳を傾け、ご本人が感情を表現できるよう促すことで、心の安定と尊厳の回復を目指します。
バリデーションがもたらす効果・メリット

バリデーションを実践することで、ご本人と介護する側の双方に良い効果が期待できます。
認知症のご本人への効果
- 安心感の向上:自分の気持ちを理解してもらえたと感じることで、心が落ち着き、安心感を得られます。
- 自己肯定感の維持・向上:自分の言動が受け入れられることで、自尊心が保たれ、自信を取り戻すきっかけになります。
- 不安やストレスの軽減:混乱や孤独感が和らぎ、BPSD(行動・心理症状)が穏やかになることが期待できます。
介護者(家族など)への効果
- ストレスの軽減:認知症の方の言動の理由が理解できるようになり、介護者の精神的な負担が軽減されます。
- 信頼関係の構築:共感的な関わりを通じて、ご本人との間に深い信頼関係が築かれ、ケアがスムーズになります。
- コミュニケーションの改善:ご本人の本音を引き出しやすくなり、より質の高いコミュニケーションが可能になります。
バリデーションが有効な介護シチュエーション事例4選

バリデーションは、特に以下のような場面で有効です。
1. 怒りや不安を表現する時
ご本人が怒りや不安を表している時、その感情を否定せずに受け止め、共感を示すことが大切です。
(例)「誰も私の言うことを信じてくれない!」と怒っている場合、「信じてもらえないと、とても悲しい気持ちになりますよね」と、その感情に寄り添います。
2. 過去の出来事を現在のこととして話す時
過去の記憶を現在の出来事として話す場合、現実を突きつけるのではなく、その思い出の世界に寄り添います。
(例)「これから仕事に行かなくちゃ」と言う方に対し、「お仕事、いつも頑張っていらっしゃったんですね。どんなお仕事だったか教えてください」と、その方の誇りや役割に関心を寄せます。
3. 同じ質問を繰り返す時
同じ質問を繰り返す背景には、不安な気持ちが隠れていることがよくあります。 根気強く答えるとともに、その不安な気持ちを受け止めることが重要です。
(例)「今日は何曜日?」と何度も聞く場合、その都度穏やかに「今日は水曜日ですよ」と答えるとともに、「次の予定が気になりますか?」など、質問の裏にある気持ちを探ります。
4. 現実とは異なる話をする時(作話など)
亡くなった方が「帰ってくる」と話すなど、現実と異なる話をされる時も、その世界観を否定せず、感情に焦点を当てます。
(例)「もうすぐ主人が帰ってくるの」と話す場合、「ご主人のことが大好きなんですね。帰ってこられるのが楽しみですね」と、会いたいという気持ちに寄り添います。
バリデーションの基本的態度とテクニック

バリデーションを実践する上で、基本となる「態度」と具体的な「テクニック」があります。
バリデーションの6つの基本的態度
バリデーションの根底には、相手を一人の人間として尊重する姿勢があります。
- 傾聴する:ただ聞くのではなく、相手の言葉の奥にある感情まで聴こうと努めます。
- 共感する:相手の立場に立ち、同じ気持ちを感じようとします。
- 評価しない:言動の善悪や正誤を判断せず、ありのままを受け入れます。
- 嘘をつかない:その場しのぎの嘘は言わず、誠実に向き合います。
- ごまかさない:質問に対してはぐらかしたりせず、真摯に答えます。
- 誘導しない:こちらの考えを押し付けず、相手の意思を尊重します。
バリデーションの主なテクニック
バリデーションには、認知症の段階(フェーズ)に応じて使い分ける、言語的・非言語的なテクニックがあります。 ここでは代表的なものを紹介します。
※ナオミ・ファイルは認知症の段階を4つのフェーズに分類しています。
- フェーズ1(見当識障害):時間や場所が分からなくなることがあるが、コミュニケーションは比較的保たれている段階。
- フェーズ2(時間的混乱):過去と現在の区別がつきにくくなる段階。
- フェーズ3(反復動作):言葉よりも、感情的な動きや行動が中心になる段階。
- フェーズ4(植物状態):外界との関わりがほとんどなくなる段階。
<主な言語的テクニック>
- オープンクエスチョン:「はい・いいえ」で終わらないよう、「いつ」「どこで」「誰が」などを使って質問し、自由に話せるように促します。(※混乱を招きやすいため「なぜ」は避けます)
- リフレージング:相手の言葉の重要な部分を、同じトーンや速さで繰り返します。「聞いてもらえている」という安心感につながります。
- レミニシング(回想法):過去の楽しかった思い出や得意だったことについて尋ね、自尊心を支えます。
- 極端な言葉を使ってみる:感情の度合いを探るため、「人生で一番〇〇でしたか?」のように、あえて極端な表現で質問します。
<主な非言語的テクニック>
- センタリング:介護者自身が深呼吸などで心を落ち着かせ、穏やかな気持ちで相手と向き合う準備をします。
- アイコンタクト:相手の正面に座り、目線を合わせて話すことで、敬意と関心を示します。
- タッチング:肩や手に優しく触れることで、言葉以上に安心感や受容の気持ちを伝えます。
- ミラーリング:相手の呼吸や動きのペースを鏡のように合わせることで、一体感や親近感を生み出します。
まとめ:バリデーションは介護における重要なコミュニケーション技法

バリデーションを実践することで、認知症の方が穏やかに過ごせる時間が増え、介護者やご家族との関係もより良いものになるなど、多くのメリットが期待できます。 大切なのは、テクニックを覚えること以上に、相手の心の声に真摯に耳を傾け、その人らしさを尊重する姿勢です。
認知症の親御様やご家族との向き合い方を模索し、有料老人ホームなどの介護施設をお探しの方は、ぜひ一度「スーパー・コート」のホスピタリティに触れてみてください。 私たちは、バリデーションの考え方を尊重し、お一人おひとりの心に寄り添うケアを大切にしています。
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監修者

花尾 奏一 (はなお そういち)
介護主任、講師
<資格>
介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士
<略歴>
有料老人ホームにて10年間介護主任を経験し、その後「イキイキ介護スクール」に異動し講師として6年間勤める。現在は介護福祉士実務者研修や介護職員初任者研修の講師として活動しているかたわら、スーパー・コート社内で行われる介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成や試験官も務めている。







