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認知症の方とのコミュニケーション方法のポイントと考え方を徹底解説

認知症の方とのコミュニケーション方法|大切なポイントと考え方を解説
認知症の方と円滑なコミュニケーションを築くことは、共に穏やかな生活を送るうえで非常に重要です。しかし、認知症の症状により、以前のように意思疎通を図ることが難しいと感じる場面も増えるかもしれません。
この記事では、認知症の方と関わる上で基本となる心構えや、具体的なコミュニケーションの技術について解説します。認知症ケアの代表的なアプローチである「バリデーション」や「ユマニチュード」にも触れながら、日々の関わりに活かせる会話のコツもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
認知症の方と関わるための基本

認知症になると、記憶や認識の世界に変化が生じ、ご本人も周囲の人々も戸惑いを感じることが多くなります。
- ✓名前を忘れてしまう
- ✓約束を覚えていない
- ✓時間や場所がわからなくなる
- ✓食事をしたこと自体を忘れてしまう
こうした言動が見られるようになっても、認知症の方は私たちが思う以上に繊細で、深い孤独感を抱えていることが少なくありません。周囲に理解されないことから自分を責め、ふさぎ込んでしまうこともあります。
認知症の症状は、脳の機能低下によって直接的に起こる「中核症状」と、それに伴い二次的に生じる「BPSD(行動・心理症状)」に大別されます。
「中核症状」は、脳細胞がダメージを受けることで発生し、認知症の方のほとんどに見られます。
- ✓新しいことが覚えられない「記憶障害」
- ✓時間・場所・季節などが認識できない「見当識障害」
- ✓話の内容を理解したり、物事を判断したりすることが難しい「理解力・判断力の低下」
- ✓計画を立てて物事を実行できない「実行機能障害」
一方、「BPSD」は中核症状が土台となり、本人の元々の性格や生活環境、人間関係などが影響して起こる症状です。徘徊や暴力、介護への抵抗といった「行動面の症状」や、抑うつ、不安、妄想などの「心理面の症状」が含まれます。
認知症の方の一つひとつの言動には、必ず何らかの理由や背景があると理解することが大切です。
例えば「徘徊」は、目的もなく歩いているように見えても、ご本人の中では「家に帰らなければ」「誰かに会う約束がある」といった切実な理由が存在するのかもしれません。また、暴力や暴言といった行動は、できなくなることが増えることへの不安や怒り、悲しみといった感情の表れである可能性が考えられます。
そのため、言動の裏にある本人の気持ちを理解しようと努める「傾聴」の姿勢が、コミュニケーションの最も重要な基本となります。
認知症ケアにおける代表的な考え方

認知症の方とのコミュニケーションにおける代表的な手法として、以下の2つが世界的に知られています。
- ✓バリデーション
- ✓ユマニチュード
バリデーションは、傾聴と共感を通じて相手の感情や世界観を深く理解し、それを受け入れるコミュニケーション技法です。一方、ユマニチュードは、ケアを行う際の基本的な心構えや関わり方の哲学を体系化したものと言えます。
バリデーションとは
アメリカのナオミ・フェイル氏によって考案されたコミュニケーション方法です。認知症の方の言動や感情を否定することなく、ありのままに受け入れて共感を示すことを基本理念とします。相手が体験している世界観を尊重し、「傾聴・共感・強制しない・嘘をつかない」といった態度で接します。相手の言葉を繰り返す「リフレージング」や、「はい・いいえ」では終わらない「オープンクエスチョン」といった具体的な技術を用いながら、ご本人に安心感をもたらし、穏やかな状態へと導くことを目指します。
ユマニチュードとは
フランスのイヴ・ジネスト氏が提唱したケアの哲学です。「ケアをする側とされる側は対等な人間である」という考え方に基づき、その人らしさを尊重し、本来持っている能力を最大限に引き出すことを目標とします。「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの要素を柱として、相手の目を見て話す、優しく触れる、立つことを支援するなど、ケアのあらゆる場面で相手への敬意を具体的に示す技術で構成されています。
認知症の方とのコミュニケーション 5つのポイント

認知症の方とのコミュニケーションにおいては、相手の世界観を受け入れ、否定せずに向き合う姿勢が何よりも重要です。
- ✓相手の話に耳を傾け共感する
- ✓否定せず、まずは受け入れる
- ✓相手のペースに合わせる
- ✓その人らしさを尊重する
- ✓安心感を与えるスキンシップをはかる
ご本人も、自分の思い通りにならないことへのもどかしさや、状況が理解できないことへの混乱を感じています。 その気持ちを汲み取り、自尊心を守るように接することが大切です。
1. 相手の話に耳を傾けて共感する
認知症の方の心に寄り添い、真摯に耳を傾け、共感する姿勢が求められます。たとえ幻覚や妄想が見られる場合でも、それを頭ごなしに否定すれば「信じてもらえない」と感じ、心を閉ざしてしまいかねません。「何が見えるのですか?」と優しく問いかけ、まずはその訴えを聞くことで不安を和らげましょう。
2. 否定せず、まずは受け入れる
「そんなわけないでしょ」「嘘を言わないで」といった否定的な言葉は、ご本人のプライドを傷つけ、かえって頑なな態度にさせてしまうことがあります。たとえ事実と異なる内容であっても、まずは一度受け止め、その言葉の裏にある本心を探ることが大切です。 不安や寂しさからくる訴えである場合も少なくありません。
3. 相手のペースに合わせる
会話や動作をはじめ、あらゆる場面で相手のペースを尊重するように心がけましょう。急かしたり、こちらの都合を押し付けたりすると、相手を混乱させてしまう原因になります。話しかける際は、背後から突然声をかけるのではなく、相手の視界に入る正面から、穏やかな口調で始めるのが基本です。
4. その人らしさを尊重する
できなくなったことにばかり注目するのではなく、その方がこれまで培ってきた「その人らしさ」や、今できること、得意なことに目を向けましょう。得意なことを活かせるような役割をお願いするなど、自信回復につながる工夫が大切です。 人格を否定するような言葉遣いや、命令口調は厳に慎まなければなりません。
5. 安心感を与えるスキンシップをはかる
認知症の方は孤独感や不安を常に抱えており、周囲の人の態度に非常に敏感です。優しく手を握ったり、背中をゆっくりさすったりといった、さりげない身体的接触は、相手に安心感をもたらし、信頼関係を深める助けとなります。 ただし、人によっては身体に触れられることを好まない場合もあるため、相手の反応を見ながら慎重に行うことが重要です。
【場面別】認知症の方との会話のコツ

認知症の方によく見られる言動に対し、どのように応じればよいか、具体的な会話のコツをご紹介します。
「家に帰りたい」と繰り返す場合
見当識障害により、今いる場所がどこか分からなくなる不安から、「帰宅したい」という訴えが出ることがあります。まずはその不安な感情を受け止め、「どうして帰りたいと思われたのですか?」と理由を尋ねてみましょう。火の元や戸締りの心配が理由であれば、一緒に確認するふりをするだけでも安心につながります。 また、お茶の準備といった簡単な役割を担ってもらうことで、気持ちを切り替えるきっかけになることもあります。
話がかみ合わない、作り話をする場合
記憶障害の影響で、話のつじつまが合わなくなったり、事実と異なる話をされたりすることがあります。話の内容がかみ合わないからといって、感情的になったり、間違いを訂正したりしないようにしましょう。例えば「財布が盗まれた」という訴えに対し、「誰も盗っていません」と事実を伝えても、本人は納得できません。 まずは「それは大変ですね、一緒に探しましょう」と共感を示し、本人が見つけられるように手伝うといった対応が効果的です。
攻撃的な言動が見られる場合
自分の意思をうまく伝えられないもどかしさが、攻撃的な行動として現れてしまうことがあります。このような場合は、一人で対応しようとせず、他の家族やケアマネジャーなどの専門家と協力する「チームでの対応」を考えることが重要です。 一人で抱え込まず、複数の人と関わりながら、信頼関係を再構築していきましょう。
まとめ:基本は相手の気持ちに寄り添う「傾聴」

認知症の方とのコミュニケーションでは、思い通りに意思疎通ができず、戸惑いを感じることもあるでしょう。 それはご本人にとっても、もどかしく辛い状況なのです。
すぐに問題を解決しようと焦るのではなく、まずは本人の不安な気持ちに寄り添い、穏やかに過ごせる環境を整えることを最優先に考えましょう。 最も大切なのは、言動を頭ごなしに否定せず、その裏にある理由を理解しようと努める姿勢です。
認知症のケアや日々の対応に不安を感じ、専門的なサポートが必要だとお考えの場合は、老人ホームへの入居も有効な選択肢の一つです。
『有料老人ホームスーパー・コート』では、全社員が認知症サポーターの資格を持つほか、認知症ケア専門士も多数在籍しています。 専門知識を持つスタッフがチームを組み、お一人おひとりのご要望や必要な支援を的確に把握し、最適なケアプランを作成する体制を整えています。
お近くの施設では見学も随時受け付けておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
監修者

花尾 奏一 (はなお そういち)
介護主任、講師
<資格>
介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士
<略歴>
有料老人ホームにて10年間介護主任を経験し、その後「イキイキ介護スクール」に異動し講師として6年間勤める。現在は介護福祉士実務者研修や介護職員初任者研修の講師として活動しているかたわら、スーパー・コート社内で行われる介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成や試験官も務めている。







