
column
コラム
公開日: 更新日:
認知症が一気に進む原因とは?原因と進行を遅らせる方法を紹介

認知症が一気に進む?急な症状悪化のサインと進行を穏やかにする方法
「この頃、親の物忘れが急に増えたように感じる」
「以前は穏やかだったのに、認知症の症状が突然悪くなったようだ」
ご家族が認知症と診断された方や介護に携わる方にとって、症状の急な変化は大きな不安と戸惑いをもたらします。
認知症の進行スピードは、原因疾患の種類やご本人の健康状態、生活環境など様々な要因に影響されます。 一見、急激に悪化したように見えても、その裏には対処が可能な原因が潜んでいることも少なくありません。
この記事では、認知症の種類ごとの進行速度の違いや、症状が急に進んだように見える背景、そして進行を緩やかにするための具体的なアプローチについて詳しく解説します。
認知症の種類によって異なる進行速度

認知症の進行パターンは、原因となる疾患によって特徴が見られます。 日本においては**「アルツハイマー型」「レビー小体型」「血管性」が三大認知症と称され、それぞれ進行のペースに違いがあります。
アルツハイマー型認知症
比較的ゆっくりと進行するのが特徴で、発症してから亡くなるまでの期間は平均で10年前後とされています。
- 初期:「人の名前が思い出せない」といった物忘れが目立ち始めるものの、日常生活は自立している場合が多いです。
- 中期:記憶障害がさらに進み、「食事を済ませたこと自体を忘れる」「慣れた道で迷う」など、生活の様々な場面で支援が必要となります。
- 後期(末期):家族の顔が認識できなくなり、コミュニケーションが困難になります。 最終的には寝たきりの状態となり、全面的な介護が必須となります。
レビー小体型認知症
アルツハイマー型と比較して進行が速い傾向にあり、症状の出方にも特徴があります。
- 特徴:初期段階から「そこにいない人が見える(幻視)」、手足の震えや小刻み歩行といったパーキンソン症状、睡眠中に大声を出したり手足を動かしたりする(レム睡眠行動異常症)といった症状が現れやすいとされています。
- 進行の仕方:日や時間帯によって認知機能が良い状態と悪い状態を行き来する「症状の変動」が見られ、全体としては階段を一段ずつ下りるように症状が進んでいきます。
血管性認知症
脳梗塞や脳出血といった脳の血管障害が引き金となって発症します。 そのため、脳血管障害を再発するごとに、段階的に症状が急激に悪化するという特徴があります。
- 特徴:脳の損傷を受けた部位が司る機能は低下しますが、損傷を免れた部位の機能は比較的保たれる傾向にあります。 その結果、「記憶力は著しく落ちているが、判断力はしっかりしている」といったように、できることとできないことの差が明確になる「まだら認知症」という状態が見られます。
認知症が一気に進んだように見える5つの原因

認知症の症状が急に悪化したと感じられる場合、疾患そのものの自然な進行だけでなく、何らかの出来事や環境の変化が影響していることが少なくありません。
1. 急な環境の変化によるストレス
認知症の方は、新しい環境への適応を苦手とします。 入院や引っ越し、介護施設への入所、あるいは自室の模様替えといった急な環境の変化は、ご本人に大きな混乱と精神的ストレスを与え、症状の悪化を招くことがあります。
2. 身体的な病気や薬の影響(せん妄)
認知症の急な悪化において最も注意すべき原因の一つが、身体疾患です。 特に高齢者は、尿路感染症、肺炎、脱水、便秘といった体調不良がきっかけとなり、一時的に意識が混乱する「せん妄」という状態に陥りやすい傾向があります。 せん妄は、一見すると認知症が急激に悪化したように見えますが、原因となっている身体疾患を治療することで改善します。 また、服用している薬の変更や副作用が原因となる場合もあります。
3. 生活の中での役割の喪失
認知症と診断されると、ご家族は安全を優先するあまり、掃除や料理といった家事全般を代行しがちです。
しかし、本人がまだできることまで取り上げてしまうと、脳や身体を動かす機会が減少し、かえって認知機能の低下を早めてしまうことになりかねません。
4. 周囲からの不適切な関わり
物忘れや失敗に対して、周囲が感情的に叱責したり、ご本人の言動を頭ごなしに否定したりすると、本人は自信をなくし、自発的な行動を避けるようになってしまいます。
認知症の方は、失敗したという出来事そのものは忘れても、「叱られた」という不快な感情は記憶に残りやすく、それが意欲の低下やうつ状態を引き起こし、症状の悪化につながることがあります。
5. 本人が感じる不安やストレス
認知症の初期段階では、ご本人自身も「何かがおかしい」と自らの変化に気づき、強い不安や焦燥感を感じていることがあります。
「以前はできていたことが、なぜできなくなったのだろう」という葛藤から生じるストレスは、脳に悪影響を及ぼし、症状を進行させる一因となり得ます。
認知症の進行を穏やかにするためにできること

認知症を根本的に治療する方法はまだ確立されていませんが、適切なケアや生活習慣によって、その進行を緩やかにすることは可能です。
食生活の見直し
栄養バランスの取れた食事は、脳の健康を維持するための基本です。 特に、青魚に豊富なDHAやEPA、緑黄色野菜や果物に含まれる抗酸化物質、そして大豆製品などを日々の食事に積極的に取り入れることが推奨されています。
一方で、バターやマーガリンなどに多く含まれるトランス脂肪酸の過剰な摂取は、認知症の発症リスクを高める可能性が研究で指摘されています。
適度な運動の習慣
ウォーキングをはじめとする有酸素運動は、脳の血流を促進し、神経細胞を活性化させる効果が期待されています。
また、筋力を維持することは転倒を防ぎ、活動的な生活をより長く続けるための基盤となります。 無理のない範囲で、散歩やラジオ体操などを日々の生活に取り入れましょう。
非薬物療法(リハビリテーション)
薬に頼らないリハビリテーションも、認知機能の維持や精神的な安定に有効です。
- 回想法:昔の写真や親しんだ音楽などをきっかけに、楽しかった記憶を語り合います。
- 音楽療法:歌唱や楽器演奏を通じて、心身のリラクゼーションを促します。
- リアリティオリエンテーション:カレンダーや時計を用いて、今日の日付や季節を意識することで、見当識の維持を図ります。
コミュニケーションと社会参加
他者との会話は、脳の様々な領域を同時に使う高度な知的活動です。 家族や友人との対話、デイサービスの利用などを通じて社会との接点を持ち続けることは、脳への良い刺激となるだけでなく、孤独感の緩和にもつながります。
認知症の方との接し方の基本

ご家族の関わり方一つで、ご本人の気持ちは大きく左右されます。 以下の3つの基本を意識してみてください。
- 否定せず、まずは共感する:たとえ事実と異なることを話しても、「それは違う」とすぐに否定せず、「そうなんですね」と一度受け止めることが大切です。 不安な心に寄り添う姿勢が、ご本人の安心感を育みます。
- 目線を合わせて話す:立ったまま見下ろすように話しかけるのではなく、少し身をかがめて相手と同じ目の高さで、穏やかに語りかけましょう。
- ゆっくり、簡潔に話す:一度に多くの情報を伝えようとすると、混乱を招きます。 「上着を着ましょう」というように、一つの動作を短い言葉で、焦らずゆっくりと伝えましょう。
まとめ:原因を知り、適切なケアで穏やかな毎日を

認知症の症状が急に進行したように見えても、その背景には環境の変化や身体の不調など、対応可能な原因が潜んでいる場合が少なくありません。 まずは慌てずにご本人の様子を注意深く観察し、かかりつけ医やケアマネジャーに相談することが重要です。
ご家庭での介護に困難を感じ始めた場合は、介護サービスを積極的に利用したり、施設への入居を検討したりすることも有効な選択肢です。
「有料老人ホームスーパー・コート」**では、認知症ケアに関する専門知識を備えたスタッフが、お一人おひとりの「できること」や「やりたいこと」に焦点を当てたケアプランを作成し、その方らしい穏やかな暮らしを支援します。
施設見学も随時受け付けておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。
有料老人ホームスーパー・コートの認知症ケアの取り組みはこちら
有料老人ホームスーパー・コートの施設見学申し込みはこちら
監修者

花尾 奏一 (はなお そういち)
介護主任、講師
<資格>
介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士
<略歴>
有料老人ホームにて10年間介護主任を経験し、その後「イキイキ介護スクール」に異動し講師として6年間勤める。現在は介護福祉士実務者研修や介護職員初任者研修の講師として活動しているかたわら、スーパー・コート社内で行われる介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成や試験官も務めている。







